新聞記事から

2021年4月22日付 繊研新聞記事より

《希少素材の名プレーヤー独自技術でさらなる価値生む》


絹紡糸(中川絹糸)
使うとわかる高品質が強み

2021年04月22日更新

洗えるシルクの「プライムシルク」 



中川絹糸(滋賀県長浜市)は国内唯一の絹紡糸メーカーだ。中国メーカーとの価格競争にさらされた中で生き残った同社。品質の向上と安定を追求し続けることはもちろん、設備の改良にまで踏み込み、「独自の糸作り」に努めてきた。昨年に創業80周年を迎えた企業だが、これまでにない技術の開発、新たな市場開拓への意欲は今なお高い。


染めると際立つ良さ

 同社は、東北地方6県の養蚕農家から原料供給を受け、養蚕から紡績まで国内一貫の純国産絹紡糸を生産している。中国の絹紡糸は安く手に入るものの、品質にばらつきが出る場合もあるが、中川絹糸の絹紡糸は高いレベルでの安定した品質が評価され、着実に販売実績を増やしてきた。「高価でも品質保証を」要求する誰もが知る国内外の高級ブランドやデザイナーブランドとの取引実績も多い。

 元々は和装分野が主用途で、品質に厳しい和装の顧客からも一目置かれてきた同社。「一見パッとしないが、染めると良さが際立ち、優れた素材だとわかる」との評価を得ている。

 この理由について、「染めたり、生地にした時に原料本来の良さを発揮できるようにしている」と中川嘉隆社長。肝になるのが精練だ。蚕の繭を煮沸し、絹本来の光沢や風合いを抑えるセリシンを取り除き、原料を柔らかくする。「後の品質に関わる大事な工程」となる。

 同社は精練を自ら行う。化学薬品を使わず、酵素を用いたセリシンの分解方法である〝酵素精練〟で、原料にダメージを与えないようにしている。温度や時間などの管理は難易度が高く、コストもかかるが、「品質をコントロールしやすい」という。姉川のすぐそばに工場がある立地を生かし、豊富な地下水を利用。精練で不可欠な「良質な水で、原料をきれいに洗える」ことでコストも抑えられる。

今が一番ワクワク

 「絹に関わるトラブルがあれば、相談されることは幸い」という。とはいえ、その状況に甘んじず、新開発の技術で需要をつかみ取ろうとしている。その一つが「シルクアジャストスライバー」。絹の繊維長を一定に揃えた混紡用スライバーだ。混紡相手の繊維長に合わせ、絹の繊維長を揃えた状態で、スライバーに加工する方法を一昨年に開発した。スライバーの状態で複合するため、混打綿やカード、コーマ工程は不要。小ロット対応が可能になり、コストを抑え、絹がより使いやすくなる。


最近では、洗える「プライムシルク」の引き合いが増えている
きっかけは、紡績、ニットメーカー、佐藤繊維(山形県寒河江市)との取り組みだ。同社の佐藤正樹社長から「絹のマスクを作りたい」と要望を受けて販売した素材が好評で、さらに「インナーウェアも」と求められた。中川社長は、「高価な糸だし、洗える利点があっても製品にして売れるかどうか」と難色を示したそうだが、その心配をよそに、佐藤繊維の自社ECサイトで予約を受け付けたところ上下セット2万円の商品が好評。「相当量の糸の受注があった」として6月ごろまでフル生産の予定だ。この実績により、「セールストークがしやすくなった」という。

 「繊維業界に務めて30年以上になるが、今が一番ワクワクしている」と中川社長。この間は新規事業の準備を進めているそうだ。1月には息子の雄仁さんが食品関係の会社から、中川絹糸を引き継ぐために入社。工場で技術研修を受けている。未来への展望が開けてきた。